不動産コラム
2025年2月14日
築古アパートはリノベか売却か ─ 収益シミュレーションで判断する方法
空室率が上がってきた賃貸物件、リノベ投資が本当に回収できるのかどうか。
具体的な数字を使った収益計算の考え方と、「リノベ」か「売却」かの判断に必要な
5つの軸を、事例付きでわかりやすく解説します。
🕐 約8分で読めます
✍️ アーバンビレッジ編集部
📋 不動産コンサルティング
1なぜ今、判断を迫られるのか
築25〜35年を超えたアパートを所有するオーナーの多くが、次のような状況に直面しています。「入居率が下がってきた」「修繕費がかさむようになってきた」「設備が古くて入居者が決まりにくい」。
この状況を放置すると、収益は低下し続け、建物の老朽化は進み、将来の売却価格も下がっていきます。今は「様子見」が最もリスクの高い選択肢の一つです。
⚠️ 木造アパートの法定耐用年数は22年
木造アパートの法定耐用年数(税務上の減価償却期間)は22年です。築22年を超えると建物の帳簿価値はゼロとなり、買主が金融機関から融資を受けにくくなります。これが「築古になるほど売りにくくなる」最大の理由の一つです。
早めに動くほど選択肢が広がります。
この記事では、「リノベして賃貸継続」「現状売却」「リノベ後に売却」の3つのパターンを具体的な数字で比較し、判断の手順をご説明します。
2リノベと売却、それぞれの特徴を整理する
OPTION A
リノベして
賃貸継続する
メリット
- 毎月の家賃収入を維持・改善できる
- 資産(土地)を保有し続けられる
- 相続税対策として有効(現金より評価額が低い)
- 将来の売却価格が上がる可能性
デメリット
- リノベ費用の初期投資が必要
- 投資回収まで5〜10年かかることも
- 施工後も管理・修繕コストは続く
- 過剰投資になるリスクがある
OPTION B
売却して
現金化する
メリット
- まとまった現金が手に入る
- 管理・修繕の手間・コストから解放される
- 空室リスクがなくなる
- 資金を他の投資・用途に回せる
デメリット
- 築古は売却価格が低くなりやすい
- 減価償却完了後は譲渡所得税が重い
- 土地の保有メリットがなくなる
- 将来の値上がり益を逃す可能性
💡 「リノベか売却か」は感覚ではなく数字で判断する
どちらが得かは物件の立地・状態・残存価値・ローン残高・オーナーの状況によって異なります。「なんとなく売るのはもったいない」「とりあえずリノベ」という感覚的な判断は禁物です。まず数字を出してから決めましょう。
この記事で使うモデル物件
物件概要
木造アパート 築32年
8部屋(1K×8)近畿地方・地方都市
現在の稼働状況
4室稼働(空室率50%)
月額賃料:1室あたり4.5万円
現在の年間家賃収入
216万円
4室×4.5万円×12ヶ月
年間管理・修繕費等
約72万円
管理費・固定資産税・小修繕等
現在の年間純収益
約144万円
このまま続けると赤字転落も近い
現在の市場売却価格(概算)
約2,400万円
土地値主体(建物評価はほぼゼロ)
3【シミュレーション①】リノベして賃貸継続する場合
水回り(ユニットバス・キッチン・トイレ)の交換、内装一新(床・壁・建具)、照明のLED化などを全8室に実施。稼働率を現状の50%→90%(7〜8室)に回復させ、家賃を4.5万円→5万円に引き上げることを目標とします。
リノベ投資額
1,200万円
8室×150万円(水回り・内装一新)
リノベ後の想定稼働
7.5室(稼働率94%)
家賃5万円/室 想定
リノベ後の年間家賃収入
450万円
7.5室×5万円×12ヶ月
年間経費(管理・税等)
約80万円
リノベ後は修繕費が一時的に減少
年間純収益(リノベ後)
約370万円
現状(144万円)比+226万円/年
投資回収年数(単純)
約5.3年
1,200万円÷増収分226万円
10年間のキャッシュフロー比較(現状継続 vs リノベ後)
| 経過年 |
現状継続 累計純収益 |
リノベ後 累計純収益 |
リノベ後 累計差額 |
| 1年目 | 144万円 | ▲830万円 | ▲974万円 |
| 2年目 | 288万円 | ▲460万円 | ▲748万円 |
| 3年目 | 432万円 | ▲90万円 | ▲522万円 |
| 4年目 | 576万円 | 280万円 | ▲296万円 |
| 5年目 | 720万円 | 650万円 | ▲70万円 |
| 6年目 | 864万円 | 1,020万円 | +156万円 |
| 8年目 | 1,152万円 | 1,760万円 | +608万円 |
| 10年目 | 1,440万円 | 2,500万円 | +1,060万円 |
| 10年累計差額 | ── | +1,060万円の優位 |
※リノベ後1年目は工事期間中の空室・収入減を考慮。1,200万円の投資額は収益から差し引いた累計で計算しています。6年目以降で現状継続を逆転します。
✅ メリット
10年で+1,060万円
現状継続より優位。資産(土地)も保有できる
⚠️ リスク
回収まで約6年
立地が悪く入居が戻らない場合、投資回収できないケースも
4【シミュレーション②】現状のまま売却する場合
築32年・空室率50%の状態のまま売却します。土地値主体の評価となりますが、収益物件としての「レントロール(家賃収入の実績)」で価格が決まります。空室が多いと買主の評価は下がりやすい点に注意が必要です。
📌 築古の減価償却と譲渡所得税に注意
木造アパートの法定耐用年数は22年のため、築32年では減価償却は完了しています。取得費の大部分がすでに計上済みのため、売却すると帳簿上「利益が出ている」扱いになり、
譲渡所得税が想定より高くなることがあります。必ず税理士に試算を依頼してください。
想定売却価格(現状渡し)
約2,400万円
土地値主体・空室率を考慮した価格
仲介手数料・諸費用
約80万円
売却価格×3%+6万円の上限
譲渡所得税(概算)
約170〜300万円
取得費・減価償却残額によって大きく変動。個別試算が必須
手取り額(概算)
約2,020〜2,150万円
売却価格から諸費用・税金を控除
✅ メリット
即座に2,000万円超
管理から解放。資金を他に活用できる
⚠️ デメリット
リノベ継続より低い
10年保有のトータルリターンはリノベ継続に劣る可能性
📋 注意点
税務試算が必須
減価償却済みのため想定外の税負担になるケースあり
5【シミュレーション③】リノベ後に売却する場合
全8室に大規模なリノベをするのではなく、空室の4室に絞って優先的に内装・設備を更新(1室あたり80〜100万円)。稼働率を高めてから数年後に売却します。「レントロールの改善」が売却価格の引き上げに直結します。
空室4室のリノベ費用
約360万円
4室×90万円(内装・水回り更新)
リノベ後の稼働見込み
7室(稼働率88%)
家賃4.8万円/室(小幅改善)
年間家賃収入(改善後)
403万円
現状比+187万円/年
想定売却価格(3年後)
約2,900〜3,200万円
レントロール改善による価格アップ。空室50%の現状比+500〜800万円
3年間の純収益累計
約480万円
(403万円−80万円経費)×3年−360万円投資
3年間のトータル手取(概算)
約2,900〜3,200万円超
売却益+3年収益累計。税引き後は個別試算が必要
✅ このパターンが有効なケース
初期投資を抑えながら入居率を改善して売却価格を引き上げ、短期間でのトータルリターンを最大化する戦略です。「今すぐ売却するには価格が低い」「大規模リノベの資金は難しい」というオーナーに適しています。
63パターンを比較する
| 比較項目 |
A:リノベ継続 |
B:現状売却 |
C:リノベ後売却 |
| 初期投資 |
1,200万円 |
0円 |
360万円 |
| 投資回収までの期間 |
約6年 |
なし(即現金化) |
約2年 |
| 短期(3年)トータル |
▲約115万円 |
約2,020万円(即) |
約2,900万円超 |
| 長期(10年)トータル |
約2,500万円収益 |
手取り現金のみ |
3年で売却のため比較外 |
| 管理の手間 |
続く |
なくなる |
3年で終わる |
| 資産(土地)の保有 |
継続 |
手放す |
手放す |
| 税務上の注意点 |
リノベ費用は修繕費or資本的支出の区分に注意 |
減価償却完了で譲渡益が大きくなりやすい |
同左。保有期間と税率の関係に注意 |
| おすすめシーン |
立地が良い・長期保有意向・相続税対策 |
管理を終えたい・資金が必要・立地が悪い |
中期的な最適化・投資回収を早めたい |
7判断を左右する5つの軸
シミュレーション数字だけでなく、以下の5つの軸を総合的に考えて判断することが重要です。
1
立地と賃貸需要
最も重要な判断軸。駅から近く、生活施設も整ったエリアであれば、リノベ後の入居は見込めます。過疎化が進む地域・賃貸需要が低下しているエリアでは、リノベ投資を回収できない可能性があります。
◎ 駅近・需要あり → リノベ向き
◎ 過疎地・需要低下 → 売却向き
2
建物の構造と耐震性
1981年5月以前に建築された旧耐震基準の物件は、構造上の問題が多く、リノベだけでは限界がある場合があります。耐震診断の実施が推奨されます。新耐震基準(1981年6月以降)の物件はリノベの効果が出やすい。
◎ 新耐震基準 → リノベ向き
◎ 旧耐震・構造に問題 → 売却・建替え向き
3
オーナーの経営意向と年齢
「あと10〜20年は賃貸経営を続けたい」という意向があればリノベが有効。一方、「そろそろ手離したい」「相続人に負担をかけたくない」という場合は売却が合理的です。投資回収に6〜8年かかることを考えると、保有継続の意志は不可欠。
◎ 継続経営意向あり → リノベ向き
◎ 早期に手離したい → 売却向き
4
相続対策としての位置づけ
アパートの相続税評価額は時価よりも低くなります(土地は路線価×貸家建付け評価、建物は固定資産税評価額×0.7など)。現金化すると相続税評価額が上がる可能性があるため、相続税対策が目的なら保有継続・リノベが有利なケースがあります。
◎ 相続税対策が主目的 → リノベ・保有向き
◎ 相続税の課税なし → 売却も選択肢
5
間取りの競争力と変更可能性
現代の賃貸需要は「広さよりも機能性」が重視される傾向。古い1Kや和室中心の間取りは需要が低下しています。間取り変更ができる構造なら1LDKや在宅ワーク対応間取りへのリノベが効果的。変更が難しければ投資効果は限られます。
◎ 間取り変更可能 → リノベ有効
◎ 変更困難・間取り陳腐化 → 設備改善かつ売却も検討
8判断フロー:どちらを選ぶべきか
5つの軸の確認が終わったら、以下のフローで方針を絞り込みます。
▼ 築古アパート「リノベ vs 売却」判断フロー
物件は賃貸需要のあるエリアにありますか?(駅近・人口安定・生活施設充実)
✅ 需要あり
次のステップへ
リノベの投資回収が見込める可能性が高い
⚠️ 過疎・需要低下
売却を優先検討
リノベ投資を回収できないリスクが高い
建物は新耐震基準(1981年6月以降)ですか?または耐震診断でOKが出ていますか?
✅ 新耐震・耐震OK
次のステップへ
リノベで価値を引き上げられる構造
⚠️ 旧耐震・構造不安
売却または建替えを検討
リノベの費用対効果が低く、安全面のリスクも残る
あと5年以上、賃貸経営を続ける意志と体力(資金・管理能力)がありますか?
✅ 継続意志あり
リノベを本格検討
複数業者の見積もりを取り、費用対効果を試算
⚠️ 手離したい・管理難しい
リノベ後売却か即売却
部分リノベで入居率を上げてから売却(C案)も有効
リノベ費用の資金調達ができますか?(自己資金または融資)
✅ 資金調達できる
リノベ計画を具体化
過剰投資にならない範囲で計画を立てる
⚠️ 資金が限られる
部分リノベ(空室優先)から始める
空室室のみ先行改修→売却のC案も有効
9まとめ:数字を持って専門家に相談を
築古アパートの「リノベか売却か」に正解はありません。ただ、「感覚で決めた」選択が数百万円〜1,000万円以上の差をもたらすこともあります。
今回のシミュレーションで確認できた重要なポイントは以下の通りです。
- 1リノベ継続は長期(10年)では収益最大化できるが、回収まで6年かかる。立地と継続意志が必須。
- 2現状売却は即現金化できるが、減価償却完了による譲渡所得税に要注意。税理士への試算依頼は必須。
- 3部分リノベ後売却(C案)は短期間でのトータルリターンが高く、「管理を終えたいがもう少し高く売りたい」オーナーに有効。
- 4どのパターンを選ぶにも「立地・建物状態・オーナーの意向・税務」の4点を整理してから判断する。
この記事のまとめ
- 築古アパートは「放置」が最もリスクが高い。方針決定を先延ばしにしない
- 木造の法定耐用年数は22年。築22年超は買主融資が困難になり売りにくくなる
- リノベ継続は回収6年・10年で+1,060万円優位(立地・継続意志が条件)
- 現状売却は即現金化だが税負担が重くなるケースも。税理士の試算が必須
- 部分リノベ後売却(C案)は少額投資で売却価格を引き上げる有効な中間策
- 判断には「立地・耐震・経営意向・相続対策・間取り競争力」の5軸を使う
収益シミュレーション、一緒に試算します
「うちのアパートはどうすべきか?」を数字で整理するお手伝いをします。
物件情報をお持ちいただくと、より具体的なシミュレーションが可能です。